第2回 人材定着(リテンション)の実態とそのためのマネジメント【人材定着のためのマネジメント 】

※本記事は、人的資源管理論・キャリアデザイン論研究をご専門とされる青山学院大学経営学部・大学院経営学研究科 山本 寛教授に寄稿いただきました。

企業におけるリテンションの実態とその影響

それでは、わが国でのリテンションの実態はどのようになっているのでしょうか。これを部下のリテンションの問題に実際に関わっている経営者とマネジメント層を対象とした調査結果(300名未満企業対象)からみていきましょう1。「辞めてほしくない社員が辞めたことがある」経験をした人が、特にマネジメント層で多く8割にのぼっています(図表1)。

 

図表1 「辞めてほしくない社員が辞めたことがある」に対する回答

(出所) あしたのチーム(2015)

 

 

また、辞めてほしくない社員には説得をすることが多いと思いますが、「説得はできたか」の問いには、7割以上のマネジメント層が「できなかった」と答えています(図表2)。

 

図表2 「説得はできたか」に対する回答

(出所) あしたのチーム(2015)

 

 

もちろん、憲法には職業選択の自由が規定されており、退職希望者が辞めたいと言えば最終的にそれが通るのは当たり前です。つまり、残って欲しい人に皆残ってもらうという完全なリテンションなどそもそもあり得ないのです。
また、「辞めてほしくない社員が辞めてしまったとき、どのような感情になったか」に対しては「無念」という回答が最多でした。以下、「不安」「悲しみ、切なさ」「焦燥」「後悔」の順で、多いと思われた「嫌悪」「怒り」は約2%に過ぎませんでした。実際、無念や残念無念という言葉で表されるような感情は長く尾を引きやすいといわれています。「あの時私が○○と声をかけてさえいれば、あの時会社に××のような制度があれば・・・彼(女)は辞めなかったかもしれない・・・残念だ」等、関わった人の中で長く残る可能性が高いのです。この点もリテンションがうまくいかなかった場合のマイナスの影響といえるかもしれません。
現在、若手社員を中心に、会社を退職したいと考えた時に社員に代わって退職の処理を行ってくれる退職代行というサービスが広がっています。筆者の聞き取りでも、「5万円払って退職代行を使っている現場の新卒1年社員がいた」(受託給食業M社)2等の声さえ聞かれるのです。退職代行が多いのは、引き留めに合うのが嫌だからだと考えられます。辞める方は、速やかに、後腐れなく辞めたい。残った社員も、不安はあっても納得し、気持ちよく送り出すことができれば、周囲の人の退職に何らかの影響を受けて社員が次々と辞めていく連鎖退職にはつながりにくいでしょう。

 

人材が定着する会社とは

そもそも社員にとって長く働き続けたいと思うような魅力的な会社とは、どんな会社でしょうか? 第一が前回も触れた働きやすい会社です。残業時間削減や休日を取得しやすくする、非正規社員の処遇の改善等の働き方改革は、社員の働きやすさの改善につながります。つまり、働き方改革を推し進めることで、ある程度満足して長く勤められることが可能になります。

それに加えて重要なのが、働きがいのある仕事ができる会社です。働きがいとは働いた結果に自分にとってもプラスの意味が見出せることで、仕事でワクワク感や成長したという感覚を感じ、モチベーションやエンゲージメント(仕事への熱意度)が高いことをいいます。そのためには部下に仕事を任せていく権限委譲という上司の役割等が重要になります。働きやすさと働きがいには関連があり、混同して使われることがありますが、別個に考える必要があります。そして、人が定着するには両方とも充実していく必要があります。
ここで考えなければならないのが「やりがい搾取」です。これは、「金銭や福利厚生などの待遇改善が不十分なまま「やりがい」のみで仕事をさせ、労働者の労働力や時間を奪い取る」3企業の姿勢を意味します。言い換えると、「働きがい」を社員に強く意識させることで、不十分な「働きやすさ」つまり、不当な低賃金や長時間労働を強いることを意味します。具体的には、アニメ業界やデザイン業界の一部の企業など、仕事自体のやりがい、面白さ、使命感等を強く意識する社員が多い組織にみられます。つまり、まずは働きやすさを改善し、それとともに働きがいを向上させることが求められるのです。現代、人々の働きやすさに対する要求水準は以前より明らかに高くなっているといえるからです。
さらに、組織の文化、言いかえると「社風」も重要です。筆者の聞き取りでは、「人を大切にする」「風通しが良い」と社員が感じる会社では社員は辞めにくい傾向が明らかでした。

 

人材定着のためのマネジメント

それでは、人材が定着する会社になっていくため整えるべき仕組みには具体的にどのようなものがあるでしょうか。国の調査によると、15~34歳の若年社員の定着のための対策を行っている事業所は7割を超えています(図表3)4。多くの企業で定着のための施策を行っいることがわかります。具体的な対策をみると、「職場での意思疎通の向上」が最も高く、次いで「本人の能力・適性にあった配置」、「採用前の詳細な説明・情報提供」、「教育訓練の実施・援助」の比率が高くなっています。企業は職場でのコミュニケーション促進、適性配置、採用前の詳細な情報提供、積極的な能力開発を重視していることがわかります。また、労働時間の短縮・有給休暇の積極的な取得奨励は近年多くの組織で行われている働き方改革の重要な施策です。

また、非正規社員に対して半分以上の企業で施策を実施しているとともに、教育訓練を除けば施策ごとの実施率に大きな違いはみられていません。人手不足状況の深刻さが影響していると考えられます。

 

図表3 若年社員の定着のための施策(%:複数回答)

正規  非正規
定着のための対策を行っている

(定着のための具体的施策)

72.0  57.1
職場での意思疎通の向上 59.0  58.3
本人の能力・適性に合った配置 53.5  49.4
採用前の詳細な説明・情報提供 52.0  49.2
教育訓練の実施・援助 49.5  35.7
労働時間の短縮・有給休暇の積極的な取得奨励 37.8  33.4

(出所)厚生労働省(2019) 

 

しかし注意すべき点は、この結果は、施策を導入したことを示しているだけで、実際に定着率が向上したことを示している訳ではありません。次回以降は聞き取りの結果も含め、実際にリテンションに効果を挙げる施策についてみていきたいと思います。

 

 

引用文献

*1:あしたのチーム2015中小企業の人事に関する調査https://news.mynavi.jp/article/20150116-a011/

*2:山本寛 2019 連鎖退職 日経BP社

*3:本田由紀 2016 日本の人事部 やりがい搾取

https://jinjibu.jp/keyword/detl/816/

*4:厚生労働省 2019 平成30年若年者雇用実態調査

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/4-21c-jyakunenkoyou-h30_05.pdf

 

*今回の連載について、より詳しく知りたい方は以下の書籍をお読み下さい。

山本寛 2018 『なぜ、御社は若手が辞めるのか』日経BP社

山本寛 2019 『連鎖退職』日経BP社

青山学院大学経営学部山本寛研究室ホームページhttp://yamamoto-lab.jp/

 

山本 寛

青山学院大学経営学部・大学院経営学研究科 教授

「連鎖退職」「なぜ、御社は若手が辞めるのか」「中だるみ社員」の罠」著者

研究室ホームページ:http://yamamoto-lab.jp/

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