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約5割の日本人が雇用について不安を抱えている
第2回目の今回は、わが国で働く人々のエンプロイアビリティ(雇われる(または雇われ続ける)ための能力やその可能性)に関連した状況についてみていきます。最近、組織に雇用されている人(自営業者等を除く)を対象としたショッキングな調査結果が公表されました(日本生産性本部,2020)。「今後のあなた自身の雇用について不安を感じていますか」という問に対し、「かなり不安を感じる」16.7%、「どちらかと言えば不安を感じる」31.0%と、併せて47.7%の人々が雇用不安を感じていたのです。特に、宿泊業(85.7%)、飲食サービス業(75.7%)、医療・福祉(65.0%)、生活関連サービス業(63.0%)等、営業自粛、休業等、新型コロナウイルス流行の影響が大きい業種で雇用不安を感じる人の比率が高くなっています。ほぼ同時期に複数回行われた調査でも、「収入・雇用に不安を感じている」と質問に一部違いがみられますが、「はい」と回答した人の比率は31.1%にのぼっているのです(厚生労働省,2020)。
高まる雇用不安
このように現在は、バブル経済崩壊後やリーマンショック後と同様、人々の雇用不安が高まっているのです。雇用不安とは、本来なら雇用継続が望ましいのにそれが将来失われるかもしれないという不安感、無力感を示します。言い換えると、現在は多くの人のエンプロイアビリティが脅かされている状態にあります。以前の調査も踏まえ、エンプロイアビリティの状況を探っていきましょう。まず、人々が望ましいと考えるキャリア形成のあり方についての調査をみてみましょう(図 労働政策研究・研修機構,2016)。できれば一つの企業でのキャリア形成を望んでいる人(一企業キャリア)の比率が上昇し半数を超え、転職を前提とする複数企業キャリアや自営業・自由業等を望む独立自営キャリアを大きく上回っています。転職が一般的になっていますが、人々の意識としては長期雇用を望んでいることがわかります。
転職市場における自己評価は低い傾向に
労働経済白書でも、同様の結果がみられました(厚生労働省, 2016)。すなわち、「出来るだけ1つの企業で長く勤めあげることが望ましい」または「どちらかといえば望ましい」と考えている人々60.7%に対し、「企業にとらわれず、もっと流動的に働けることが望ましい」または「どちらかといえば望ましい」と考えている比率は16.6%だったのです。同調査ではさらに深堀りし、実際それが可能と考えているかどうかを尋ねています。調査の結果、「実際に1つの企業だけで、一生、働き続けることは可能である」または「どちらかと言えば可能である」と考えている人々35.8%に対し、「企業の倒産や(正社員でも)解雇はいつ起こってもおかしくない」または「どちらかといえばおかしくない」と考えている比率は38.8%であり、拮抗しています。つまり、長く勤めたいが、それが必ずしも可能とは考えていない人が多いことがわかります。現在では後者がもっと多いと考えられます。
同調査では転職市場における自己評価、つまりエンプロイアビリティの自己評価についても訊いています。自身の能力や経験が、転職市場で「大いに評価されると思う」または「ある程度評価されると思う」と回答した評価が高い人々は42.7%、「何とも言えない・分からない」と答えた人々は19.8%、「あまり評価されないと思う」または「まったく評価されないと思う」という評価が低い人々は37.4%でした。このように、転職市場において自身の能力や経験が評価されると考えている人々、つまりエンプロイアビリティの自己評価が高い人々は半数に満たないことがわかりました。
まとめ
現在の所属組織での継続雇用を望む傾向は、雇用不安の広がりで全体として高まっていると考えられます。しかし、倒産、解雇等雇用不安が現実化した場合、最も大切になる自身のエンプロイアビリティについて多くの人々が自信をもっていない実態が明らかにされました。人々の経験や能力を適切に評価し、その上で、必要とされる能力を身につけることによってエンプロイアビリティを高めることがますます重要になってきたのです。
引用文献
厚生労働省 2016 平成28年版 労働経済の分析(労働経済白書)-誰もが活躍できる社会と労働生産性の向上に向けた課題-
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/16/dl/16-1.pdf
厚生労働省 2020 第1-4回「新型コロナ対策のための全国調査」からわかったことをお知らせします
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11244.html
日本生産性本部 2020 新型コロナウイルスの感染拡大が働く人の意識に及ぼす調査
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/5f4748ac202c5f1d5086b0a8c85dec2b.pdf
労働政策研究・研修機構 2016 勤労生活に関する調査
https://www.jil.go.jp/press/documents/20160923.pdf
*今回の連載について、より詳しく知りたい方は以下の文献をお読み下さい。
山本寛(2014)『働く人のためのエンプロイアビリティ』創成社
山本 寛
- 青山学院大学経営学部・大学院経営学研究科 教授
- 「連鎖退職」「なぜ、御社は若手が辞めるのか」「中だるみ社員」の罠」著者
- 研究室ホームページ:http://yamamoto-lab.jp/